当院ではスポーツ整形外科外来において、スポーツ特有の障害や外傷を専門とする医師が診療にあたり、スポーツ愛好家からトップアスリートまで、競技種目やレベルに応じた治療を行っていきます。

近年、スポーツへの関心は高まっており、子供から高齢者までがスポーツを楽しむようになっています。一方で、スポーツによりけがをすることもあります。スポーツ選手がけがをした場合、その治療のゴールは、日常生活に戻ることではなく、元のスポーツ活動ができるようになることです。そのため、スポーツ動作時の痛みや動きが改善する必要があり、日常生活に戻るレベル以上のものが求められます。

スポーツでけがをした多くの場合、適切な安静期間とリハビリを行うことで競技復帰を目指します。リハビリでは、通常の物理療法のほかに、適切なストレッチ、筋力トレーニング、基本動作トレーニング、競技動作トレーニングなど、アスレティック・リハビリテーションを行います。手術を要する場合も、できるだけ最少侵襲で行うため、その多くが関節鏡での手術となります。

主なスポーツ外傷・障害

投球障害肩(野球肩・リトルリーガーズショルダー・SLAP障害など)、肩関節不安定症(肩関節脱臼など)、腱板損傷、肩関節周囲炎(拘縮肩 凍結肩など)、インピンジメント症候群、肩鎖関節脱臼、鎖骨骨折など


野球肘(離断性骨軟骨炎・内側側副靭帯損傷・肘頭疲労骨折など)テニス肘(上腕骨外側上顆炎)、ゴルフ肘(上腕骨内側上顆炎)、肘関節脱臼など


三角線維軟骨損傷、有鉤骨骨折、マレットフィンガーなど

股関節
グロインペイン症候群、股関節唇損傷、FAIなど


靭帯損傷(前十字靭帯損傷 後十字靭帯損傷 内側側副靭帯損傷 外側側副靭帯損傷)、半月板損傷、離断性骨軟骨炎、オスグット病、ジャンパー膝、ランナー膝、膝蓋骨脱臼など

下腿・足
足関節捻挫(足関節靭帯損傷)、シンスプリント、足関節インピンジメント症候群、三角骨障害、外脛骨障害、アキレス腱断裂、アキレス腱炎、足底腱膜炎など

脊椎
腰椎分離症(疲労骨折)、腰椎椎間板ヘルニア、頚椎捻挫、バーナー症候群(Stinger症候群)、頚椎椎間板ヘルニアなど

その他
骨折、疲労骨折、肉ばなれなど

★スポーツでは一度の外力で生じるスポーツ外傷と、繰り返しの負荷が原因となるスポーツ障害に分けられ、これらを合わせてスポーツ外傷・障害と呼びます。一般的にけがは一度の外力で受傷するものを指しますが、ここでは両者を含む意味で表記しました。

具体的な症例のおはなし
前十字靭帯損傷
好発年齢:1540
 前十字靭帯は膝関節の前方および回旋安定性に寄与し、重要な役割をする靭帯です。バスケットボール、サッカー、バレーボール、バドミントンなど、スポーツでの受傷が多く、切り返しやジャンプの着地など、対人の接触とは関係ない場面で損傷することが多いです。



















 受傷直後は、痛みのためプレー続行が困難で、歩行も困難になり、膝関節は腫れます。しかし、日数が経過し、適切なリハビリを行うことで、可動域も回復し日常生活は不自由なく行えるようになります。しかし、前十字靭帯は自然治癒が期待できないため、膝が不安定な状態は改善しません。切り返しやジャンプ動作の際に、膝くずれと呼ばれる膝の亜脱臼を起こしやすくなり、パフォーマンスが下がります。また、不安定な状態のままで過ごしていると、半月板損傷を合併する確率も高くなり、関節軟骨の損傷も進むため、スポーツを継続する場合は手術を行うことが勧められます。MRI検査を行うと、断裂した前十字靭帯がわかります。


















 前十字靭帯の手術では、断裂した靭帯を修復(縫合)してもうまく機能しないため、自分の膝にある腱を靭帯の代わりとして作り直す再建術が行われます。主に膝の内側の鵞足部に付着するハムストリング腱(半腱様筋腱)を用いて再建します。スポーツ種目によっては、骨付き膝蓋腱を用います。関節鏡を用いて大腿骨、脛骨に孔を作成し、その骨孔内に採取した腱を通して両端を金属などで固定することで靭帯を再建します。





































 復帰には長い時間がかかります。通常3か月以降でジョギング開始、術後9か月から1年をかけての競技復帰を目指します。筋力トレーニングのみでなく、適切なスクワット動作やジャンプ動作の習得、競技に応じたアジリティトレーニングなど、リハビリが重要です。




















半月板損傷
好発年齢
スポーツでの損傷:10〜30歳、変性による損傷:40歳以降
 半月板は膝の内側、外側に存在し、膝関節のクッションの役割をします。半月板損傷は、スポーツ中に膝を捻るなどの動作をしたときに生じやすく、前十字靭帯損傷に合併するケースも多くみられます。また、加齢とともに半月板の性質が低下して(変性して)、徐々に傷んでくるケースも多くみられます。この場合は半月板の位置がずれる半月板逸脱を起こしやすくなります。また、先天的に大きな円板状半月板の形態をしていることで、損傷しやすくなることもあります。症状は、膝を捻る時の痛みや歩行時の痛み、膝の腫れ、引っかかり感などです。損傷した半月板が関節に挟まると、ロッキングといって膝を伸ばせない状態になります。単純X線検査で半月板は写らないため、診断にはMRI検査が必要です。超音波検査では半月板逸脱を診断できます。




















 治療は半月板の損傷形態によって異なりますが、荷重や運動の制限、膝関節へのヒアルロン酸の注射、リハビリテーションなどで症状が改善しない場合、約1cmほどの皮膚切開から挿入される関節鏡を用いての手術が行われます。半月板を切除すると将来的に変形性膝関節症を高率で発症することが分かっているため、できるだけ半月板修復術(縫合術)を行います。


















 しかし、温存できない半月板は最低限の部分切除を行います。関節鏡手術は身体への侵襲が小さく、数日の入院でも可能です。術後は、可動域回復・筋力回復・歩行のバランスなどのリハビリテーションが重要です。スポーツ活動は、通常術後3か月からジョギングを開始し、スポーツ復帰は6か月以降が目標となりますが、半月板の縫合部の状態によっては、それ以上かかることもあります。




















変形性膝関節症
好発年齢:40歳以降
 膝の痛みで最も多いのは、膝の軟骨が傷む変形性膝関節症(へんけいせいひざかんせつしょう)です。膝の靭帯損傷や半月板損傷、骨折などの外傷が原因にもなりますが、多くの場合、加齢、肥満、O脚、遺伝的要因など複数の要因で生じます。変形性膝関節症は、軟骨がすり減るだけでなく、半月板や骨もダメージを受け、滑膜炎などを伴い痛みを生じます。




















 変形性膝関節症が進行すると、関節の隙間が狭くなり、骨の辺縁がとがってくる骨棘が見られるようになります。単純X線で診断される変形性膝関節症は日本で2500万人いるといわれていますが、症状がある人は約800万人と推計されています。つまり、軟骨がすり減っているにもかかわらず、無症状の人も多いことが分かります。




















 主な症状は膝の痛みや正座ができない、膝が腫れるといったものです。痛みのひどい時期は、炎症や痛みを抑える薬を内服し、膝に負担をかけない生活を心がける必要があります。また、大腿四頭筋の強化、股関節や臀部周囲の筋力強化やストレッチ、お皿(膝蓋骨)をよく動かすことなどのリハビリテーションも推奨されます。体重の減量は痛みの改善につながりますが、ランニングで減量を試みると膝に負荷がかかり、痛みがひどくなることもあるため、運動する場合、痛みのない範囲でのウォーキングや水泳などがベターです。ヒアルロン酸の膝関節内注射も推奨されます。これらをうまく組み合わせても、痛みが改善しない場合、高位脛骨骨切り術や人工膝関節置換術などの手術が考慮されます。





















O脚があると、膝の内側に体重が集中します。そのためさらに内側の軟骨はすり減り、さらにO脚が進行するという悪循環になります。高位脛骨骨切り術は、脛骨の内側を切って開大することにより、O脚を改善させる手術です。体重が膝の中央からやや外側を通過することになるため、痛みの改善が得られます。開大した隙間にはB-TCPという骨に置換される材料を入れ、金属で固定します。術後は2週間後から全体重をかけての歩行を目標にリハビリを行いますが、当面は松葉杖が必要です。金属は1年以上経過した時点で抜去します。最終的に膝には金属も残らないため、関節温存手術と呼ばれています。


















一方、変形性膝関節症が進行した場合には、人工膝関節置換術が行われます。内側のみであれば、人工膝関節単顆置換術が、内側も外側も傷んできる場合には、人工膝関節全置換術が行われます。耐久性は2030年と言われているため、一般的に若い方に行われることはありません。術後は可及的に全荷重での歩行が許可されます。




















(イラストの一部はスポーツ医学検定公式テキストより引用)